パフェを食べられない人のブログ

そんなことしてる場合か?

エロが原動力のバカな男子高校生の物語、がそろそろ辛くなってきたという話

三年くらい前までだったら楽しく読めたと思うんだけどな。こういった物語をもはや楽しめなくなってきた自分が悲しく、秋風の冷たさが切ない今日この頃です。がんがん歩くのには丁度いいので実際のところめちゃめちゃ過ごし良い季節ですね。お天気キャスターは気温が下がることを悲しそうに告げるのをやめてほしいです。

 

村上龍の『69』を読んだところ作品のテイストに反して私は大変物悲しい気持ちになりました、という話です。

 

1969年という年に、佐世保という場所で、17歳の童貞男子高校生が、バリケード封鎖やらフェスティバルやらの「若者の祭り」をブチあげる。政治的なことや思想的なこともごちゃごちゃ考えるんだけれども、その原動力は結局のところ「かわいい女の子」にモテたいということだったのだ。あの頃僕らは若くてバカだった。だけどめちゃめちゃ楽しかったよね。というのが『69』のおおよそのあらすじと言っていいのではないかと思う。

amazonレビューなんか見ると割に高評価で、まあ読みやすいし、多分作品としては面白いといっていいタイプの小説なんだと思う。思います。

 

何が悲しいのかというと、なんだろう。なんていうか、結局のところ、そうやってバカやって、あのころ俺たちは輝いていた。「モテたい」「セックスしたい」みたいな欲望に突き動かされて、でもそれこそが17歳のピュアさでもあって、キラキラした青春の一ページだった、みたいな、そういうパターンの物語って割とたくさんあると思うんですけど、でもそこに、私はいないじゃないですか。私はいません。私だけじゃなくって、生きた人間としての「女」がそこにはいないんじゃないですか?

 

『69』の中に出てくる女の子はみんなはちゃめちゃな美少女なんですね。主人公のケンが想いを寄せるのは、「「レディ・ジェーン」というニックネームを持つ、他校にも名のとどろく美少女」で、その友達の佐藤由美は、終始「妖婦アン・マーグレット」と呼ばれ、「アン・マーグレットのおっぱいは、本物のアン・マーグレットにも負けない。とても立派だ。たぶん嘘だと思うが、実家が牧畜業のイシヤマという生徒が身体検査で覗き見に成功して、佐藤のおっぱいはうちの牛より大きかった、と言ったこともある。神様、おっぱいが大きくなりますように、と幼児の頃から毎日曜日祈りを捧げたのかも知れない。」とかなりしつこめに乳房のことばかり描写される。フェスティバルのオープニングセレモニーに出演してもらうことになる長山ミエは、「クラウディア・カルディナーレ」にそっくりで、彼女は「こんな唇を自分のものとして自由にいろいろ使えるのなら」「男はみんな石炭だって食うだろう」と思わせるような魅惑的な唇をしている、らしい。

それ以外の女の子に関してはほとんど描写されない。(マスダチヨ子という中学の同級生の話が実は本当はもっと重要だったのではないか?とは思う。彼女は「パンパンの娘」で、中学時代書道部で、よく賞状をもらったりなどしていて、ヘッセが好きで、主人公にラブレターを送るんだけれども無視されてしまう。高校一年になったある日久しぶりに主人公が見かけた彼女は、髪を染めて厚化粧をして黒人兵と腕をくんで歩いていて、主人公はマスダチヨ子も黒人のちんちんをしゃぶるんだろうかなどと考え、このことが彼の政治的思想的な部分の一つの根っこにもなっているんだと思う)

結局、17歳の主人公には「かわいい女の子」しか見えていないし、それも好きな女の子以外はおっぱいか唇かしか見えていなくって、彼女たちの頭の中には微塵も興味がないんですね。「かわいくない」方の女の扱いなんて当然のごとくもっとひどい。

 

  一人が笑いを止めて、教室の入口を指差した。全員が笑うのを止めた。静まり返ってしまった。そこに、天使が立っていたからである。松井和子が、こちらを見ていたのだ。美少女は、男達の爆笑を止める力を持つ。ブスはその逆だ。爆笑の源である。

 

『69』の中には、「爆笑の源」たる「ブス」(そもそもほとんど描写もなされない)と、おっぱいちゃんと唇ちゃんと、「天使」しか女が出てこない。

あー、女って人間じゃねえのかな。え、ほんとに?

女は、男たちの青春のキラキラのエフェクトでしかなくて、しかもかわいい女の子のかわいい容姿やおっぱいやなんかだけがエフェクトたりうるみたいな……そんな……え、ほんとに?

私は、私は女だって人間だとか、ちゃんと人間扱いしろとか、どうせ男はそういう風にしか見ていないんだろとか、そういうことが言いたいわけじゃないんです。(もちろん女は人間なので、人間として接するべきです。)

こういう、エロバカ青春物語に対して、「そうそう、男って結局こうなんだよ」みたいな「だって男子高校生ってそういう生き物でしょ?」みたいな、安易な「わかる」ボタンを押す前に、ちゃんと己を振り返ってくれ。ほんとうに、ほんとうにブスは爆笑の源で、かわいい女の子は青春のキラキラエフェクトでしかなかったか?お前たちの世界には生きた人間は男しかいなかったのか?ほんとうに?今現在はどうですか?あなたの世界には男も女も生きた人間として存在していますか?

もし、万が一、そうじゃなかったとしたらそれは、私や私たち、あなたやあなた達にとって、とても、とても悲しいことではないでしょうか。違いますか?