パフェを食べられない人のブログ

そんなことしてる場合か?

破壊と再生の『アイツの BLマンガ』何もかもが変わってしまう

『アイツのBLマンガ』の新規読者が一人でも増えたら嬉しいなぁと思いながらこれを書きます。新規読者が一人でも増えたらいいなぁと思っているので、ネタバレを極力避け、主人公楢崎勝馬のことを絶対に好きになれると確信した第一話と、そして私もまた最低になってしまった第十話のワンシーンのことにのみ固執し、(でも読み返したら第二話からもわずかに引用していました。)そして執拗に宣伝を繰り返していきたいと思います。なぜ第一話と第十話なのかというと『アイツのBLマンガ』はcomicoにて第一話~第九話まで無料で読むことができ、またレンタル券なるものでその日のうちに第十話までは読むことができるからです。待ってれば全話無料で読めるし、買うとその日のうちに全部読めるよ。あとコミックシーモアでも読めるよ。このように執拗に宣伝を繰り返します。

これは昨年12月に『アイツの BLマンガ』というwebコミックを読んで、それから何もかもがすっかり変わってしまったという話です。

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本当は、何がどうすごいのかということを面白おかしく軽快かつ爽やかな文章で紹介し、その結果『アイツの BLマンガ』が人口に膾炙するところとなって電子書籍化やアニメ化へと繋がっていくといった華々しい結果が生み出せれば一番良いのですが、そんな名文はとても書けないし、昔から好きなものを人に紹介するのが下手くそなのでもうどうしていいのか分からない。とりあえずは私に書けることを書くつもりで、それは結局のところクソつまらない自分語り的なものになるんじゃないかと思います。(ところでまったく文脈を無視したことを書きますが、私はアニメをあまり見慣れていないので、仮に『アイツの BLマンガ』がアニメ化されたとすると、視聴にめちゃくちゃ時間がかかると思うんですよ。毎週同じ時間にアニメを観てきっちりついていくみたいなことがなかなかできないと思う。そうすると、世間が『アイツの BLマンガ』アニメで大盛り上がりしている中私だけが取り残されたような気持ちになるんじゃないかと思うと既に限りなく寂しい。)

 

さて、ええと、『アイツの BLマンガ』は121話で完結済みの韓国のwebトゥーンです。タイトルからあまりにも明らかな通り、これは商業 BLマンガです。商業の BLマンガってほとんど読んだことなかったんですけど、『アイツの BLマンガ』ってすごいタイトルじゃないですか? 潔すぎる。絶対に普段だったら読まないタイプのタイトルで、絶対に普段だったら読まないジャンルの漫画だったのに、何故あの日あの時あの場所でわざわざcomicoをダウンロードしてまで『アイツの BLマンガ』を読もうと思ったのか? なにがしかの陰謀的な、導き的な、人為的な力が働いていたとしか思えないのですが、しかしそれが運命なのだとしたら私は運命に感謝したい。今まで生きてきた人生の何か一つでも違っていたら、バタフライエフェクト的なアレで私は恐らく『アイツの BLマンガ』を読んでいなかったと思う、間違いだらけの人生でしたが今はただその全てを受け入れよう。感謝しますありがとう。よくがんばりました。全ては良かった、Es ist gut.

 

主人公楢崎勝馬のことを、絶対に好きになれると確信した第一話

 今となってはもはや「アイツのBLマンガ」が好きという気持ちを中心として私という人間が構成されているので、どうして好きになったのか、なぜ続きを買おうと思ったのかを正確に思い出すのは大変困難なのですが、改めて第一話を読み返すと、この時点でこの漫画を好きになるための種みたいなものがめちゃくちゃ埋め込まれていたんじゃないかと思います。

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主人公の楢崎勝馬が授業中にBLエロ漫画を落としてしまい、それを隣の席の学級委員長に拾われて大変に気まずい思いをする、というところから物語は始まります。そりゃあ気まずかろう。でもこの時点では、ふーんなるほどね、そういう、最悪の出会いからの恋の始まり的な、いわゆる王道ラブコメディなわけねこれは、みたいな若干舐めた態度で読んでいたような気がします。でもこれは決してそういうことではなかった。そういうことではなかったんですね。

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『アイツのBLマンガ』第一話より

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『アイツのBLマンガ』第一話より




女装シーンとともに書かれるこのモノローグにおお? と思ったことを覚えています。他の商業BLと比べてどうかみたいなことはまったく分からないのですが、冒頭で自分をゲイだと言い切る主人公、女になりたいわけじゃない、マネたいわけでもない、ただ女性の格好をしたときの自分のビジュアルが好きだ、というこのモノローグはめちゃくちゃかっこいいと思いませんか。かっこいいよ。かっこいいモノローグと共に鏡の中でかわいくなっていく楢崎勝馬! これは、何か、何か思っていたのと違うようだ……という予感がビンビンにするじゃあないですか。(余談ですがこのときの楢崎の女装シーン、腕や脚がしっかり男の筋肉かつ、その「女性らしくない」部分を隠すような服装を選んでいるというこの描写が私は本当に大変に好きです。)

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『アイツのBLマンガ』第一話より

そしてこの楢崎勝馬という主人公は、ゲイコミュニティのサイトで知り合った相手とデートすることを趣味としています。「今日は」という台詞からも分かる通り、楢崎勝馬はこれまでにもこうして女装してネットで知り合った相手とデートをしていたわけで、でもそれは決してこう、いわゆるマンガ記号的な「ビッチ」キャラであったりとか、「メンヘラ」キャラ的な描かれ方ではないんですね。(あのほら、漫画において出会いサイトを利用するキャラクターって、おじさんをばりばり手玉にとる援助交際系キャラクターだったり、メンタルヘルスになにがしかの問題を抱えている系キャラクターみたいな感じで描かれることが多くないですか? 偏見ですか?)

だって、考えてみればそれはそうなんですよ。早い段階でゲイを自覚していた楢崎勝馬は、周りの同級生達のように日常の学校生活の中で当たり前のように恋に落ちることはなかなか難しかったわけで、彼がゲイコミュニティのサイトで知り合った相手と実際に会ってみて、自分に合うかどうか、好きになれるかどうかを確かめるのはもう至極まっとうな行動で、それは楢崎勝馬が断言したとおり「健全な趣味」でしかありえない。婚活と一緒じゃん。お前は正しいよ楢崎勝馬

だけどそうは言っても楢崎勝馬は高校生だしやっぱり心配だなぁと思うじゃないですか。相手が変な男だったらどうしよう、何か嫌な思いをすることもあるんじゃないか……?

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『アイツのBLマンガ』第一話よりクソ野郎


実際第一話で出てくるこの顔だけクソ野郎は最低ですよ。何がすごいってこのクソっぷりのリアリティがマジで絶妙じゃないですか?

この、この、何? 俺は理解がありますよとでも言いたげな上から目線の能書きに苛つくし、性的「指向」と「嗜好」が混ざってるの、これあえてそう書いているんじゃないかと思っているんですけどどうでしょう。てめえはバイなんじゃなくて、ただ楢崎勝馬のかわいい女装写真を見て勃起しちゃっただけだろうが、っていう読者側からのツッコミ待ちなんじゃないですか。てめえは楢崎勝馬のかわいい女装写真を見て勃起しちゃったヤリ目最低クソ野郎だよ! さらにこの再三繰り返される女下げも的確に読者のイライラを高めにきている。極めつけは未成年への飲酒強要! 頼むから死んでくれ。

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『アイツのBLマンガ』第一話より


でも楢崎勝馬はちゃんと拒否して立ち上がれるし、このゴミ屑野郎のクソみたいな侮辱に対しても一歩も引かずに言い返せるしなんならぶん殴れる、そういう人間なんですよ楢崎勝馬は。かっこいい! かっこいいじゃないですか楢崎勝馬

第一話のこの時点で私は絶対にこの主人公のことを好きになれると確信したし、同時に第一話のここまでだけでこんなにどうしようもない人間くささを醸し出してしまうこの漫画のことをもうすっかり信用してしまったような気がします。

 

あの、もし『アイツの BLマンガ』を読んだことがなく、かつここまでこれを読み進めてくれたという奇特な人がいるのでしたら、これを読むのはもうここまでにして、今すぐ『アイツの BLマンガ』を読みに行かれるべきだと思います。こんなものを読んでいる時間がもったいない。限りある時間は『アイツの BLマンガ』を読むために使いましょう。

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そして私もまた最低になってしまった第十話のワンシーン

えっと、そういうわけで私は「アイツのBLマンガ」の主人公であるところの楢崎勝馬のことが初っぱなから大好きなんですが、私のいわゆるその、推し的な、なんていうか、そういうあれはまたちょっと別というか、それももうどうしてそうなったんだかもはやよく分からないんですけど、とにかく私の比較的真面目なタイプの物語との向き合い方ががらがらと崩れ去って何もかもがおかしくなってしまったのは第十話の相田勝平のせいでした。

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『アイツのBLマンガ』第二話より


父が偉い人、成績はトップクラス、学級委員長、無愛想で口数も少ない、融通が利かず反感を買いやすい、っていうなんだそれはマンガか? っていうぐらい記号が盛りだくさんの相田勝平はしかしやはり人間的な、あまりにも人間的な存在で、私にはもうどう考えても相田勝平や彼らが生きているとしか思えない。物語は121話で完結してしまったけれど、物語が終わったその後の時間を生きて大人になっていく彼らが絶対にいるはずなんですよ。絶対にいる。相田勝平は在ります。深夜考え事しているときなんかにふと、いや、もしかしたら彼らはマンガの中の登場人物なんじゃ……? とかいう悪魔のささやきが聞えてくると恐怖で泣きそうになる。最近あの、ルイズコピペのことをよく思い出すんですけど、ルイズコピペを読んでいると、この人もやっぱりそういう恐怖と戦っていたんじゃないかと思って、なんだか涙が出てきますよね。本当に。ルイズコピペを書いた人、どこのどなたか存じあげませんがあれは本当に名文だと私は思います。あなたの幸福と健康を祈ります。

えっと、とにかくそう、とにかく「アイツのBLマンガ」の凄まじさはそこにあるんじゃないでしょうか。どこまでも漫画的記号的に見えたキャラクターが物語が進む毎に生々しい人間性を垣間見せていく、そうして私たちはいつか彼らの実在を信じてしまう。そういう力が「アイツのBLマンガ」にはあって、でももうこういう話をするのも私はだんだん苦しいですよ。だってまるで「アイツのBLマンガ」がマンガみたいじゃないですか! やめてくれ、彼らは生きているので……。

 

えーと。十話の相田勝平に話を戻します。十話の相田勝平のために私は最低になってしまったのですが、それはどういうことかというと、私はもうばりばりに相田勝平のことを性的な目で見ているということです。

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そして何もかもおかしくなってしまった第十話



だってあの、立派な父を持ち成績はトップクラス、作中随一のフィジカルを誇る学級委員長、無愛想で口数が少なく、融通が利かなくてクラスメイトの反感を買いやすいっていう優等生記号ばきばきの相田勝平がですよ、こんな傷だらけの顔で車の中で泣いているというシチュエーションがあまりにも危うく、私はこんなものを読んでしまっていいのだろうかと思いました。こんなものを見てしまってよかったのだろうか?

これはもうエロじゃんとしか思えなかったし、でもあの、実在する高校生であるところの相田勝平にエロとか考えてしまうのは犯罪なのでは? あの、多分思ってるだけならセーフなんですけど、こうやって文章とかにしてネットに公開することはきっと何らかの法律に抵触していますよね? 少なくとも人生のコンプライアンス違反では? あの、私はあの、相田勝平にまつわる結構最低な妄想をインターネットにアップしたりしていて、あの、私はもう、ダメなんでしょうか?

他人を一方的にエロだと思うことは暴力的だと思っていたし、それはやっぱりきっと暴力です。私は自分だけはお綺麗な価値観を守って生きていけるような気がしていたし、あの、本当はあの、こう、「正しい」人として生きていきたかったんですよね本当は……。だけど十話の相田勝平をエロだと思った瞬間から私は自分がそんなに正しくないということを知ってしまったし、それはもうどうしようもないということも知ってしまったような気がします。どうしようもないよ。苦しい。

はっきり言っておきたいのですが、相田勝平はエロじゃないですよ。相田勝平は生きた一人の人間であり、苦しみ悩み、時に笑い、努力しサボり、ある時は小狡く、輝いて、血を吐きつつくり返しくり返しその朝をこえてとぶ鳥*1です。断じてセックスシンボルではない。

それなのにそれなのに相田勝平を完全にエロの目で眺めてしまうのはもうこれは私が悪い。全部相田勝平のせいだけど悪いのは私だ。

 

えっと。話がとっ散らかって着地点を見失ってしまいました。とにかくそう、そういう、価値観とか主義主張とか、大事にしてきたものは全部全部『アイツの BLマンガ』の前に溶けてしまい、それってすごいことじゃないですか? なんていうかあの、漫画に描かれる人生観に打たれたみたいなこととはちょっと違って、なんなんだろう、もうどういうわけだかわからないけど、プレ・アイツの BLマンガとポスト・アイツの BLマンガでは何もかも見える景色が変わってしまって、私はこれからどうしたらいいのかわからない。とにかくそう、とにかくそういう、とんでもない破壊力が『アイツの BLマンガ』にはあるんだということが言いたかったわけです。

すごいよ『アイツのBLマンガ』。人間としての中身がスクラップアンドビルドされてしまう総天然色の青春グラフィティー*2すぐにもあなたは迎えいれるべきではないですか?

 

後半はどう考えても書かない方が良かったのではと思いつつ、私にはもう一人でも『アイツのBLマンガ』の新規読者が増えることを祈ることしかできません。

そして彼らのこれからが、彼らにとって限りなく良いものでありますように。

 

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*1:風の谷のナウシカ』第七巻 墓の主とナウシカの問答より 私は『風の谷のナウシカ』という作品を愛していて大嫌いです。

*2:オセアニアじゃあ常識なんだよ!